扉の護人はいう。
触れれば命が削れる扉だ、と。
「すべての人間を通そうと思うのなれば、五十の贄を連れて来い」
思わず皆が絶句する中、するりと動いた人影があった。
「・・・・ふ、ん?吸収した命を使って、狭間のバランスを取ってるわけか」
興味深げに扉を眺め、手をかざしてその構造を読み取ったらしいイギリスが面白そうに笑った。
「い、イギリス、離れてーっ食べられちゃうよっ」
「お前はなにを聞いてたんだ、イタリア。近づくだけならなんの問題もない」
「で、でも。命を削るって・・・!生贄が必要だって・・・っ」
「開く代償に命を奪うのも合理に沿っているぞ。扉を開けば狭間のバランスが崩れるから、それを補うのに命を使うんだ。・・・うん、よくできている」
よく造ったもんだ、と呟くエルフに恐怖のカケラもない。
「さて、命を吸い取り狭間のバランスをとる・・・その仕組み、実際にみせてもらおうか」
にやりと笑ったエルフの手が扉に触れた瞬間、その体に稲妻がまとわりつく。
「「イギリス!?」」
その暴挙にあわてたフランスとドイツが、それを止めようと走り寄れば、「邪魔すんじゃねぇ」と睨みつけられた。
案外重いな、と呟いて、イギリスはその手に力を込めるのが見て取れて、フランスは息を呑んだ。
ギ、と扉がきしんで、僅かな隙間が開く。
「もう、手を離せ、イギリス!」
「俺に触れれば、お前らの命もなくなるぞ。『人の子』」
フランスを睨みつけ行動を縛り付けたイギリスは、ふん、と鼻先で笑った。
「実に興味深い」と、ついでのように呟いて、扉を開いていく顔は平然としているが、近くにいるフランスには苦痛が見て取れた。
「イギリス・・・」
伸ばしかけた手を握り締め、ただその様を見守るしかない。
たかが十秒弱の出来事だった。
たやすく扉は開かれ、続くその先をあらわにした。
「ついでだ。とっとと通れ」
開いた扉が閉じないよう、それを抑えつつ、バチバチとはじける稲妻をまとわりつかせたイギリスが言う。
もう、誰もが、彼がなんのために命を削っているのか、わかっていた。
だから、誰も何も言わず、開かれた扉を通り抜ける。
「・・・少し、綻びが出ている。まだ製作者が生きているのなら、修正させたほうがいい。北北西5の9、水と土の螺旋だ。・・・あるいは、綻びが大きくなる前に壊すか、だな」
扉の護人に告げ、イギリスもまた扉をくぐった。
「イギリスのばか!」
「やぶからぼうになんなんだ。喧嘩売ってるなら買うぞイタリア」
「ならば、この場にいる全員があなたに喧嘩を売っていることになりますね、イギリスさん」
「日本まで・・・」
ため息をついたイギリスは、いつのまにか伸びていた髪をかきあげる。
さっきの扉の影響だろうか、髪は足を越すまでに伸び、顔つきも、年齢が少し上がったように見えた。
「別に・・・お前たちのためじゃない。俺のためなんだからな」
「お前自身のためであろうが、なんだろうが、心配してはいけないか」
苦々しく吐き出されたドイツの言葉にイギリスは眉間にしわを寄せる。
「べつに、嫌々心配されたかねぇよ」
「勝手に決め付けるな。嫌々じゃない。あぁいう暴挙にでられれば、心配して当然だろうが」
「そうだよ、ドイツの言うとおりだよ!友達の心配をしてあたりまえじゃないっ」
「と・・・っ」
さ、と赤くなった顔に、どうしようもない愛しさを覚え、フランスはそのあたまをぐしゃりとなでた。
「どうしてお前はそう素直じゃないんだよ、もう」
「素直じゃないってなんだっさわんな! 俺はただあの扉に興味があったから・・・さっきのはついでだ、ついで!」
むっつりと、ふい、と顔をそむけようが、耳まで真っ赤なのだから意味はない。
「言っておくけど。別にこういうことのためにお前を外に引きずり出したわけじゃないし。最終的にお前に頼むことになったかもしれないけど、誰も悩まなかったことなんてないからな」
頭でグタグタと考えてそうなことに先回りして釘を刺せば、首まで真っ赤に染まって絶句したエルフに、
「う、うううううるさい!もうお前黙れバカ!」
と、バカの称号とともに、理不尽にも殴られることになったフランスであった。
PR