昔話を語る老人は言う。
うっそうと茂る木々の奥、何人も立ち入らないその山奥に、一人のエルフが住んでいる。
かのエルフは、古今東西のあらゆることに通じた賢者である、と。
「あ?賢者?勝手に決め付けんな。人間よりゃ長生きだが、こんな山奥に住んでて【なんでもわかる】わけねーだろ」
実に理に適った言葉であるが、詐欺だと思いたくなるのはそれはもう酷い苦労をしてここまできたからだ。
道なき森にイタリアという、いっそ最強コンボと思われるそれに耐えてエルフの住処までたどり着けたのは、ひとえに不可思議な日本の力と、イタリアを一手に引き受けたドイツの苦労の賜物であった。
「だ、だが、あなたは、われわれが来ることも、どうやってきたかもご存知の様子だった」
ほうほうのていでたどり着いた三人(一名は自業自得)が、扉の存在を認めた瞬間、それは内側から開いた。
『・・・そのお荷物をつれて、此処までこれたことは褒めてやるよ。――茶ぐらい淹れてやる。入れ』という言葉と、仏頂面とともに。
「―― 森の中ならなば、な。人の子の生き様に興味はない」
しれ、と、何故此処にやってきたのかわかってる口ぶりで紅茶を飲む様を、ドイツはただ苦々しくみつめるしかなかった。
紆余曲折の果て、エルフを口説き落とし、町へと引きずり出した三人だったが。
「おー、あんたがエルフの・・・って、イギリスぅ!?」
「おまえもいるのかよ、フランス」
町で待っていた仲間の名を苦々しく吐き出すイギリスをただ呆然と見つめることになる。
「町に買い物に来てたり、物売ってるってどういうことだ!?」
「別に物欲がないわけじゃない。買いたい物ぐらいあるし、買うためには人の子の金が必要だろ」
「隠遁生活だと・・・!」
「あぁ、うん。あれは嘘」
実は町へ抜ける小道があると知って、ドイツが胃痛に死にそうになるのも、もうすぐだ。
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