扉を無事通り抜けた後
ハンガリーに髪をまとめてもらっている(あまりにも大雑把に剣で切ろうとしていたのはとめた)イギリスをみつつ、あれ、と思う。
「お前・・・そんなに綺麗な顔してたっけ・・・?」
「は?お前、なにいって・・・あ、やべ。魔法が切れてる」
きめの細かい真白の肌に、けぶる金の睫。新緑の森を思わせる瞳を縁取るそれは、さながら木漏れ日だろうか。
ばら色の唇はふっくらとして、みずみずしかった。
うっかり手を出しかけて、相手はあのイギリスだぞ、内面最悪!と自分に言い聞かせる。
「魔法?」
「明らかに人外だろうが・・・。町で買い物もままらない」
なら、その耳も魔法で何とかすればおおっぴらに町を歩けたのではないか、と内心思ったが口には出さないことにした。
へんなところで抜けているのだ、このエセ賢者は。
「やーん、かわいー!お化粧したーいっ」
「やめてくれ、ハンガリー・・・」
げっそりしつつ、それでもハンガリーにされるがままなのは、どう対応していいのかわからないからだろう。
助け舟を出して恩を売っておくか、と口を開きかけたところで、目の前を光がよぎった。
「お・・・」
渡りに船といった表情のイギリスが手を差し出し、その指に光が止まる。
「―― そうか。ありがとう」
ゆるく微笑み礼を言うイギリスに、いいえ、とでもいうように光が瞬いて、ふわりとどこかへ飛んでいった。
「ここから北に500ほど行ったところに都市があるそうだ。中心にクリスタルがあるらしい」
「了解」
遊んでる場合じゃない、と皆々が移動の準備をはじめたところで、ふと、ドイツが呟いた。
「イギリス・・・お前、【なんでもわかる】はずがない、と言ってなかったか」
「俺は、な。」
にやりと、人の悪いエルフが笑う。
「妖精がいれば彼らが情報を教えてくれるし、木の一本もあれば、声が聞ける。情報源には事欠かん」
「――!」
あぁ、ドイツが死にそうだ、と思いつつ「それ、早く言ってやれよ」と言えば
「そもそも、妖精が知りうる情報、木が見た情報しか手に入らない。【なんでも】はおかしいだろう?」
と、哲学染みた答えが返ってきて、そんなところに、何十年と生きていることを感じる。
「・・・最近は妖精の数も減っているし、昔に比べて彼らの行動は随分と制限を受けている。大地の力も落ち、木々達が『起きて』いる時間も短い。『話す』力も弱って、目立った情報が得られないことも多い」
イギリスは、原因を口にしなかったが、それは明らかだった。
人の知らぬところでも、教会の影響が出ていることに気づかされる。
神妙な顔をする人間たちを一瞥して、彼はただ「俺を過信するな、といいたいだけだ」と言った。
「過信は、死を招く」
ぽつりと落ちた言葉に、仲間を心配するが故の響きを感じて、思わずフランスは笑った。
「そか、お前俺たちが好きなのなー」
「ば、な・・・・!なにを・・・!」
否定しても、その動揺っぷりと顔の赤さが事実を証明している。
人付き合いに慣れていないエルフに、皆表情を緩めた。
その頬にキスを落としたり、頭をなでたり、それぞれ親愛の情を示してから、自分の作業に戻る。
真っ赤になったエルフを笑うように、そのまわりをふわふわと光が舞っていた。
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