仏視点と対になっています。
ぱらぱら。
ぱらぱら。
光の雨が降りそそぐ。
赤、青、白・・・色とりどりの光の放流に、イギリスは目を奪われた。
『花火』はやはり日本の技術が逸品だと、あらためて思う。
どこからみても、すばらしい円を描く、夜空に浮かぶ芸術品。
ほう、とため息が漏れた。
「・・・きれいだな」
ぽつりと漏れた声は、誰のものか一瞬判断がつかないほどに、それは自身の思いと一致していた。
「そうだな」
深く考えるまもなく、腐れ縁である(そして、なにからなにまで反発しなくては気がすまないはずの)フランスの意見に、至極あっさりと同意していた。
ぱらぱら。
ぱらぱら。
したたりおちる光の雫。
最後の一滴が消えてふと我に返る。
ちらりと視線だけで横の男を仰ぎ見た。
柔らかくウェーブを描く髪はうしろでくくられ、ふだんはみえないがっしりしたアゴや首筋が見えた。
ドォォン
―――――― パッ
一瞬まぶしく光ったその刹那、その瞳が和らぐのをみて、胸が騒いだ。
たいがいの顔を知っている。
変質者の顔。戦いの最中の獣みたいな顔。意地の悪い顔。泣く間際の顔。必死の顔。追い詰められた顔。貧相な顔。
けれど、そんな表情はみたことがなかった。
いな、知ってはいても、近くで見たことがなかっただけかもしれない。
芸術を愛し、その身でもって体現する男にはさぞ花火は心を振るわせるものだろうことは想像にかたくない。
だが、それだけではないなにかが――はっきりいえば、消え行く花火を眺める様が、まるで愛しいものを見ているかのように、感じられたのだ。
「どした?」
ふ、と花火の間を縫って、フランスの顔がイギリスへと向けられ、彼は少なからず動揺した。
舞い散る光に不可思議な色で輝く金糸とか、闇に沈み深い海のごとき色をたたえる瞳とか、珍しくまっとうな表情な顔だとか、そんな普段とは違ういろいろなものが、イギリスの心を騒がせる。
「な、――なんでもねぇよ」
耐え切れず、視線をはずし、空を仰いだ。
ちょうど、ドンと打ち上げられた花火が、パ、とあでやかに大輪の花を開く。
不自然な様を見せずにすんだことにホっとして、内心息を吐いた。
「――なぁ」
「なんだ?」
しばらくイギリスの顔をながめていたフランスが、なにかを問うように声を出す。
「――・・・いや、なんでもない」
「・・・そうか」
けれど、それは形をとることなく、イギリスは、ただ花火をみつめながら、うなずくしかなかった。
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