絵茶でお礼に置いたものをサルベージ
英オンリーな仏→←英
「―― あれ・・・」
愛して止まない庭の植物たちの世話をしていることだ。
イギリスは薔薇の傍らに見慣れぬ花の存在を認めた。
「エリンジウム?」
色合いも見た目も地味なその花を、手ずから植えた記憶はない。
イギリスの好みとは言いがたいそれは、そもそも地中海原産で、この家は適さないのだ。
そういえば、なんでこの花の名前を知ってるんだっけ。
あわぬ風に身を震わせながらもけなげに咲く花を、無碍に扱う気も起こらなくて。
鉢植えにして室内で育てるか、と腰をあげたところで、ふと考える。
好きではない部類の花を詳しく調べる時間などイギリスにはない。
なのに、あの花が好む土壌まで知っている。
どこでみたんだったか、と物置に足を運びつつ考えて、どうしても思い当たらないそれに首を捻るがそれもいつものこと。
「・・・まぁ、いいか」
今は、まず、あの花を部屋にいれてやることが先である。
「・・・あぁ、そうか。フランスの家か」
エリンジウムに触れた瞬間、霞が晴れたように思い出した記憶と照らし合わせつつ、手の中の花を見つめる。
派手好きの男なのに、地味な風情の花を愛でているのが珍しく、興味を持ったのだった。
うっかり花言葉まで把握していたことも思い出す。
「―― 秘密の恋だったか」
あの男のことだ。
口説く手段として育てているのだろう。
当時はその結論を出したところで興味を失ったのだが、忘れたころになって手に入るとはなんの因果だろうか。
「種でも飛んできたのか・・・?」
フランスの家の、と思えばどこかむず痒い。
やっぱりやめようかと、もう一度手の内の花を眺めて。
「・・・」
さやさやと、訴えるように揺れる花を見れば、やはり無碍に扱おうという気持ちは起こらず。
苦笑いをひとつ落として、鉢へと植え替える。
花に、罪はない。
たとえ、「口説く手段だろう」と無理やり己を納得させて、記憶に蓋をした事実を思い出させられようとも。
「―― フランスに熨斗つけてくれてやる」
思いを重ねてしまえば手放せないとわかっていながら、イギリスは小さく毒づいた。
気づけば、いつのまにか庭に増えている花。
それは、ニコチアナであったり。ジギタリスであったり。
不自然にあらわれる存在に、どこまでボケてきたんだ俺は、と頭を悩ませること暫し。
どれも、フランスの家にあった花だと気づくまでに、また暫し。
ぽつりと現れるその花々の理由がわかるまでに、さらに時間をかけることになるのは、また別な話。
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