■召還士英
烏賊さんのおうち(なびさんで、 烏賊 と検索すればでてきます)にて、公開されている召還士英のいるGH設定に基づいて、アメリカ離反直後の話。
1/7現在、設定は下げられていますが、煮詰めなおし中のこと。
こそりと見せてもらった設定メモを見る限り、離反状況がかわるかもしれないのですが、ご許可もいただけたことだしアプ。
アメリカのセリフは、前に公開されていた烏賊さんの設定からお借りしています。
うろおぼえメモ(おおざっぱに状況説明)
・イギリスとアメリカは一緒にいる
・謎の集団が、屋敷を襲う。
・女王は逃がしたものの、囲まれたイギリスとアメリカ
・アメリカ、イギリスを裏切り離反
パソコンに眠るssアプ第二段。
本当はメインとなる話の前フリとして書いていたので、ここできると中途半端に感じてしまうだけだと信じたい。
白。
それが、イギリスが目覚めて目に飛び込んできたすべてだ。
色もなく。音もなく。
世界に一人取り残されたような孤独。
ゾワリと身震いをし、とっさにアメリカの名を呼びかけて。
「・・・っ」
鮮明によみがえってきた記憶と、額に走った痛みに思わず呻いた。
口々に「殺せ」と謡う人々。
叫びではない。訴えではない。
うつろな目で、ただ「異端の魔術師を殺せ」と、ただそれだけを口に、攻撃してきた『人形』。
アメリカとイギリスだけが取り残され、敵の攻撃の中、なんとかアメリカだけでも脱出させようと呪を唱えだしたところだった。
「どうやらここまでかな・・イギリス。君との生活も結構楽しかったけどお別れみたいだぞ!」
謡声のなか、なぜか鮮明に聞こえたアメリカの声。
「アメリ、カ?」
思わず呪文をとめ、アメリカを見つめれば、彼はニコリと笑った。
場違いなほどに爽やかで、いつもどおりな笑顔。
「異端なる者に神の聖なる鉄槌を」
軽やかな声の持つ意味を考えたその瞬間、ドン、と音が響いた。
―― それが、最後の記憶。
死んだのだと思った。
むしろ、死んでいたほうがよかった、と思う。
目覚めなければ、きっとアメリカの言葉の意味知らぬままだったのに。
ギリギリと歯を食いしばって、身を焦がす衝動に耐える。
そうでもしなければ・・・なにをするか自分でもわからなかった。
「あぁ、起きられたのですね」
キィ、と静かに扉のきしむ音がして、中に入った女がホとした声を上げる。
それに気づいて顔をあげれば、
「どこか痛まれますか?」
気遣わしげな表情とともに、いたわるような声が落とされた。
それを理解できるのも、「いいや」と意識せず返していたことも、我ながらこっけいでしかたがない。
どれほどの激情が身を苛もうとも、培われた他人への壁は消しようがないのだ、と、どこか冷静な自分が考えた。
「そうですか」
女は柔らかく微笑み、そ、とイギリスの額に触れる。
触れるな、と思う自分と、それも仕事、と考える自分。
「どうなった?」
一切を省いて、端的に質問すれば、それで女はすべてを理解したようだった。
顔をこわばらせ、視線を伏せる。
「結論を言えば、女王陛下はご無事です」
「・・・そうか」
「館は壊滅。あなたは、訓練用のペイント弾を額に被弾し、脳震盪をおこして倒れていらっしゃいました」
「ペイント弾?」
「ええ。ご自分で打たれたのですか?」
「まさか。俺は銃を持たない」
「では、なぜ・・・」
いぶかしげな女に、それはこちらのセリフだといいたい。
アメリカは何を考えてペイント弾を使ったのか。
あの子供のことだから、 うっかり という可能性も高い、と思ったところで、
「・・・館にいらっしゃった魔導師の方々は皆・・・皆、殺されていました。」
ぽつりと落ちた女の言葉に体が凍った。
「な、に・・・?」
女は答えない。ただ、悲しげな目で一度イギリスをみて、目を伏せた。
ぐるぐると女の言葉とアメリカの言葉が頭をめぐる。
まさか。と思う。
まさか。
ひとつの可能性にたどり着き、とっさに飛び出しそうになったイギリスを止めたのは、女の忠告だった。
「お気をつけください。ただ一人ペイント弾で打たれたあなたをいぶかしんでいるものがいます。・・・いいえ、いっそ、憎んでいるものもいる」
「・・・」
「ペイント弾をうつことで難を逃れたのだと、賞賛する声もありますが・・・多くは、『敵に身を売った』だの『仲間を見殺しに自分だけが逃げた』だの、よからぬ噂を流してます」
「・・・お前は違うのか?」
「あの館には、恋人がいました」
「・・・」
「だったら、あなたを憎んでいたと思います」
「・・・・・・・は?」
「私は、女王の忠実なる僕。なにより愛するのは女王陛下ですもの。女王をお守りしたあなたを憎むいわれはございませんわ」
「そう、か」
「私をお遣わしになられたのは女王です。女王は、どんな噂が流れようとあなたを信頼しておられます」
「・・・ぁぁ。感謝する」
「?」
「俺を信頼してくださってる女王陛下はむろん、言葉を告げてくれたあなたにも」
ふ、と女が笑う。
「・・・どうぞ、おやすみください。十分な水分と休息ですぐに楽に動けるようになります。そうしたら一度女王陛下にお目どおりなさるとよろしいわ」
「いや、いますぐにでも」
「だめです。私が女王陛下に怒られてしまいます。『しっかりやすめ』というのは女王のご命令ですわ」
「そう、か」
「なにか欲しいものはございます?」
「いや・・・」
「では、気分が落ち着くよう、匂い袋でもお持ちいたしましょう」
「ああ、ありがとう。この花はあなたが?」
「生けたのは私ですが、くだされたのは女王陛下です」
「・・・へいかが」
「それと、名前はお聞きできませんでしたが、兵士さんが。館で助けてくださったことに感謝します、と」
「・・・」
「おそらく、この部屋から出た瞬間、あなたの敵にまわる人間は多いのでしょうが・・・味方もいらっしゃいますわ」
「ああ。・・・肝に銘じておく」
にこり、と女は微笑んで。そ、とイギリスの頬にキスを落とし、部屋から出て行った。
後に残されたのはイギリスと、やわらかな花の香り。
「・・・俺は・・・」
女の言葉。アメリカの言葉。記憶。感情。
選ぶもの は。
「・・・」
さほど間をおかずしてあらわれた女に、今度こそ自分の意思で感謝を告げると、イギリスはベッドに身を横たえた。
うけた傷はペイント弾だけではない。
早く、と騒ぎ立つ心とは反対に、体は休息を欲していた。
匂い袋に鼻をうずめ、息を吸い込めば、どこか懐かしい匂いにとがった気分が和らぐ。
眠り薬も忍ばせてあるのか、ほどなくして訪れた睡魔に、イギリスは逆らわず身をゆだねた。
すくんでいる暇はない。だからこそ、早く体を癒し、動き出さなくてはならない。
選んだ己の真実を現実のものとする。ただそのために。
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