仏英。ちゅー
――なぜ、こんなことになったのだろう。
彼は、何度目かわからないため息を鬱屈とした思いとともに飲み干した。
** Game **
イギリスは、自分が酒乱であることを知っている。
どれだけ酔っても記憶がなくならない自分の体質がいっそ恨めしくなるぐらいには、どういうことをしでかしてきたかよくわかっていた。
観光先の――たとえばギリシャとかポーランドとかにどれほど疎まれてるかわかりすぎるほどわかって心苦しいのも(口には出さないが)事実で。
『国』の性質上、家の人間たちの行動に左右されるとはいえ、イギリスも旅の恥はかき捨て、自由に振舞えばいいと思っているわけではない。
外国へ出かけては、酔って辺りに迷惑をかけるのは、家の若人達であり、それをよく思っていない理性の人間たちも当然いる。
けれど、イギリス自身が若人の現し身(うつしみ)をとっている以上、前者の行動に大きく動かされるのもしかたのないことだった。
そうして、酔った翌朝には、己の行動を思い返しては死にたい気分になるのがこの数年のイギリスの通例だった。
だから――・・・だから少しばかりの意趣返しには耐えようと思っていたのだ。
本当に、申し訳なくおもっていたから。
でも、だからって、フランスとキスしろとかって、無理。
たしか、もともと軽い親睦会のようなものだったはずだ。
裏になにか意図的なものを感じたが、王様ゲームにのったのも、罪悪感がなすが故のこと。
多少の羞恥には耐えるつもりだったのだ、これでも。
けれど、王様を引いたギリシャの迷言に、自分のしでかしてきた数々も忘れて、「無理だ!」と絶叫していた。
「だめ・・・。王様の、命令は・・・ぜったい」
けれど、ぼけぼけとした調子でギリシャはとりあってはくれなかった。もともとそのつもりだろうから、当然といえば当然。
頼みの綱のフランスも、キスをするとわかった時点では真っ青な顔で力一杯否定していたが、どうまるめこまれたのか、今はおとなしい。
ニヨニヨとしたいつもの笑いではなく、苦りきったあきらめた顔なのがせめてもの救いだろうか…なんて。疲れきった頭で考えた。
「あーもう、わかったよ、すりゃぁいいんだろ、すりゃぁ!」
やけになって叫べば、えたり、とした顔でギリシャがうなずく。
もう絶対に酔って他国に迷惑をかけないと内心誓ってはみるものの、自分の意思だけではすまないそれは酷く根拠のない嘘のようで、我ながら虚しさだけを感じる。
などと冷静に状況を分析しようが、現状が変わるはずもなく。
意を決して、じり、とフランスに近づけば、彼は、ジ、とイギリスを見た。
諦めとも、真顔ともつかないその顔に、イギリスの心は動揺する。
―― くそ
内心舌打ちをして、また一歩近づけば、フランスは僅かに苦笑をもらしたようだった。
まるで、『そんなに緊張するなよ』といわれているかのようで、うちに上がった憤りが、僅かに体を動かす力となる。
意を決して、そ、とフランスの顎をもちあげても、彼は目をつぶりもせず、ジとイギリスをみたままだった。
自分だけが目をつぶるのもしゃくで、そのまま目を開いたまま顔を近づける。
かちり、と目がかち合った。
青い瞳だ。
ラベンダー、ラファエロ、アルパイン・・・さまざまな『青』が交じり合って、不思議な風合いを醸し出している。
フランスのこんな表情を間近でみるのは初めてだ。
顔を近づけた記憶など、にらみ合い以外にない。
こいつの瞳はこんな色をしていたっけ、と柄にもなくドキリと心臓が騒いで、そのことにさらに動揺する。
じ、と根競べのように見詰め合っていたが、
唇が触れ合う直前、耐え切れずその目を手でふさいだ。
「いー・・・ち、にー・・・ぃ」
ギリシャの間延びした声がゆっくりとカウントをとりはじめる。
早く終われ、ときつく目をつぶりながら、ただそれだけを思った。
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