以前かいた吸血鬼フランスの設定で、なんとなく。
ちなみに前回のはコレ→■
紛れ込んだ絵茶中に、試験に頑張るtさんに応援として出したかったものの、時間がかかりすぎて断念。
こっそりとネットの片隅から応援してるんだぜ…っ
「げ」
何気ない夜だった。
アーサーは机にむかい、フランシスはソファでくつろぐ、そんな風景。
もっとも、アーサーに言わせれば、「吸血鬼なら吸血鬼らしく闇に紛れてろ、バカ」らしいが。
ちなみに、「夜に人の部屋でくつろいでるんじゃねぇよ」も、定番のセリフである。
しかし、最近はそういうセリフも聞くことなく、フランシスがアーサーの部屋を訪れても、「おう」と答えるだけ、の日々が続いていた。
別に、フランシスの存在が同居人として受けれいられたわけではない。
アーサーは大学の試験で忙しいのだ。
それに気づくまでかなり動揺したものだが、ソレと気づいてからは、散らかりがちな部屋を片付けたり、夜食を作ったりして暇をつぶしている。
同胞にいわせずとも、「なにやってんねん」な現状だと我ながら思わなくもないが・・・処女の少なくなった昨今、いちいち処女(しかも美女)を探すより、ここでこうしてアーサーの世話を焼いている方が楽しいのだからしかたがない。試験が終わった後、ぶっきらぼうに(しかもわかりづらく遠まわしに)感謝を伝えてくる様をおもえば、なかなか楽しいのだ。
もっとも、それもまた同胞には「なにやってんのもう・・・」な心境らしいが。
長い生なのだから、たまにはこういうときもあるのではないかと思う。・・・自分でもうろんな理由づけと思わなくもないが、それしか思い浮かばないのだからしかたがない。
「どうした?」
珍しい声に立ち上がり、彼の机のそばに向かう。
普段なら決してありえないことに、動揺と不安に揺れた緑の瞳がフランシスを見上げた。
つられて動揺しかける心臓をなだめて、もう一度「どうした?」と声をかける。
自分の手がいつのまにかアーサーの髪をなでていたが、慣れというのは恐ろしいと我ながら思った。
まさかこいつ相手にいつものような行動をとるとは。
「・・・試験用のプリント、大学に忘れてきた」
またかよ。
そういいかけて、口をつぐむ。
携帯を忘れようが、財布を忘れようが、ここまでの動揺を見た記憶がなかった。よほど大事なものなのだろう。
「ぅ~~~」
小さくうなるさまを眺めつつ、髪をなでる。
―― もうちょっとこうしていてもいいかなぁ。
アーサーがかわいらしいことなど、滅多にないのだから。
そっと肩に触れても嫌がらない。
―― もうちょっといいかなぁ・・・
おそるおそる力を込めてその肩を引き寄せようとした時だ。
「・・・よし。くよくよとしてもしかたがない」
勢いをつけてアーサーの顔が持ち上がる。
間近な瞳に、あわてたのはフランシスのほうだった。
「参考書読み込んでなんとかするしかねぇ」
とりあえず紅茶でも入れるか、と、呟いて立ち上がるアーサーに、内心の動揺を押さえつけて声をかける。
「あ?お前も飲むか?」
「あぁ。なに、珍しくやさしくね?」
「・・・るせ」
夜食のお礼ってところか。
こういうぶっきらぼうに照れた顔みるたび、やっぱり外にいかなくて正解だと思う。
かわいいなぁ・・・・じゃ、ない。
そうじゃなくて。
「なぁアーサー」
「あ?なんだよレモンティーがいいのか」
「いやそうじゃなくて」
「じゃぁ、アップルティー?」
「そうでもなくて」
「ロシアンティーにでもするか?」
「そういう意味でもなくてさ、とりあえず人の話を聞け」
「ん?」
素直に小首をかしげるとか、本当に今日はどうしたのいうのだろうか。
これから言おうとしていることをやめたくなるぐらいに、心ときめかされる。
「あー・・・大学の、どこらへんよ」
「?」
「プリント。とってきてやるよ」
それでも、滅多に売りつけることのできない借りをつくるチャンスだ。
「へ?」
「俺ってば吸血鬼よ?プリントとってくるぐらいちょろいちょろい」
ぱしりと目を瞬かせる。
かわいいけど、すっかり忘れていた様子に呆れた。
「おまえ、忘れるなよなー」
「ばか、血ぃ吸われてんのに、忘れるわけないだろ」
じゃぁ、その反応はなんなんだ、とまぜっかえしてやろうとして、続いた言葉に思わず絶句する。
「ただ・・・あーうん。ただ、そういう生き物だって忘れてただけだ」
ぼそぼそと言い訳のように呟くその言葉の意味をわかっているのだろうか。
わかってないだろうな、と勝手に決定して、苦く笑う。
「で、どこよ」
「あー・・・・・・・・西の棟の」
参考書でなんとかするとかなんとか言っていたが、やっぱり欲しいものは欲しいのだろう。
暫しの逡巡の後、意地を張ることなく素直に告げられた場所にむけて、フランシスはその翼を広げた。
「あ。あった」
数分後呟かれた言葉をフランシスが知るのは、さらに数時間たった後のことである。
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